量子コンピュータの概要および脅威

量子コンピュータとは、量子力学の原理を応用したコンピュータのことです。電子などの極微の世界で起こる物理現象を利用して性能を飛躍的に向上でき、スーパーコンピュータでは何千年も要する演算をわずか数時間で演算することが可能で、人工知能(AI)分野やIoTなどの発展にも大きく貢献すると言われています。そのため、各国が国を挙げて量子コンピュータ開発を進めており、一部では実用化も始まっています。
民間企業においても、Google、IBMなどの大手企業が実用化に向けた取り組みを本格化させており、量子ビット安定化や誤り訂正技術の開発が進展しています。
本ページでは、量子コンピュータの概要、応用分野、潜在的な脅威とその対策について、簡単に解説します。

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以下の原理を活用することで、従来のコンピュータでは膨大な時間がかかる計算を高速に処理できる可能性があります。

量子重ね合わせ

量子ビット(キュービット)は、0と1の両方の状態を同時にとることができる。これにより、並列的な計算が可能になる。

量子もつれ

複数のキュービットが相互に強く結びついた状態(もつれ状態)を作ることで、一方の状態が決まると他方の状態も瞬時に決まる。これにより、高度な計算や情報伝達が可能になる。

量子干渉

量子状態の重ね合わせを適切に制御し、不要な計算結果を打ち消し、正しい解を強調することで、高速な問題解決が可能になる。

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新素材・新薬の開発

量子コンピュータは分子や化学反応のシミュレーションが得意で、新しい材料や医薬品の開発を加速できる。例えば、超伝導材料や創薬の分野での活用が期待されている。

最適化と機械学習

物流、金融、人工知能(AI)分野での最適化問題を高速に解決可能。ポートフォリオの最適化、サプライチェーンの最適化、機械学習モデルの高速トレーニングなどに応用される。

暗号解析とセキュリティ

ショアのアルゴリズムにより、現在の公開鍵暗号(RSAなど)を高速に解読可能になる可能性がある。一方で、量子暗号(量子鍵配送)による新しいセキュリティ技術も発展している。

以下の分野では、量子コンピュータが既存の計算機では困難な問題を効率的に解決できる可能性があります。

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完全な実用化にはまだ時間がかかるものの、技術的な進展が続いており、今後のブレークスルーが期待されている。

ハードウェアの進化と多様化

Google、IBM、Intelなどの企業が超伝導量子ビットを用いた量子プロセッサを開発中。IonQやHoneywellはイオントラップ方式を採用。数十~数百の量子ビットを持つプロトタイプが登場している。

エラー訂正とスケーラビリティの課題

量子ビットはエラーが発生しやすく、実用化には量子エラー訂正が不可欠。現在は「ノイズあり中規模量子(NISQ)」時代と呼ばれ、限られた規模の量子コンピュータが実験的に活用されている。

実用化に向けた産業界の取り組み

量子コンピュータを活用した金融、製薬、材料科学分野の実証実験が進行中。クラウド経由で量子計算を提供するサービス(IBM Quantum、AWS Braket、Google Quantum AIなど)も登場している。

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量子コンピュータが実用化される前に、セキュリティ対策の移行を進めることが急務となっている。

公開鍵暗号の解読

現在広く使われているRSAや楕円曲線暗号(ECC)は、素因数分解や離散対数問題の難しさに依存している。量子コンピュータのショアのアルゴリズムにより、これらの暗号が短時間で解読される可能性がある。

ハッシュ関数と対称鍵暗号への影響

グローバーのアルゴリズムにより、ハッシュ関数(SHA-256など)の安全性が半減し、対称鍵暗号(AESなど)も鍵長を倍にする必要がある。ただし、完全に破られるわけではなく、鍵長を強化すれば耐性を持たせることが可能。

耐量子計算機暗号(PQC)への移行の必要性

量子コンピュータ時代に備え、耐量子計算機暗号(PQC)の開発が進行中。NIST(米国国立標準技術研究所)が標準化を進めており、格子暗号や符号暗号などが有力候補。既存システムの移行には時間がかかるため、早期の準備が重要。

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耐量子計算機暗号(PQC)は、量子時代に備えた暗号技術の新たな基盤となることが期待されています。

量子コンピュータに対する耐性

量子コンピュータは、従来の暗号方式(例: RSAやECC)を効率的に解読する可能性があるため、PQCは量子アルゴリズムに耐える暗号方式として設計されています。これにより、量子コンピュータが普及した後でも、安全な通信を維持することができます。

主要な暗号手法

PQCには、量子コンピュータに強い暗号手法がいくつかあります。代表的なものとして、格子ベース暗号(Lattice-based cryptography)、コードベース暗号(Code-based cryptography)、ハッシュベース暗号(Hash-based cryptography)、多項式暗号(Multivariate polynomial cryptography)などがあり、これらは量子コンピュータでも効率的に解読できないとされています。

NISTの標準化プロセス

アメリカのNIST(National Institute of Standards and Technology)は、PQCアルゴリズムの標準化を進めており、量子コンピュータの影響を受けにくい暗号方式の選定を行っています。これにより、PQCが将来の通信インフラにおいて広く採用されることを目指しています。

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量子コンピュータに備えることは、政府機関や金融機関など重要な情報を預かる組織をはじめ、様々な組織において、未来の情報セキュリティを守るための重要なステップです。

従来の暗号の脆弱性

量子コンピュータは、従来の暗号アルゴリズム(例えばRSAやECC)を効率的に解読できる能力を持つとされています。特に、ショアのアルゴリズムを使うと、大規模な整数因数分解や離散対数問題を瞬時に解決できるため、これらの暗号方式は量子コンピュータの登場により破られる可能性があります。これに対策を講じることが必要です。

長期的な安全性確保

量子コンピュータが実用化されるのは数年から数十年先と言われていますが、現在の暗号技術は長期間にわたり使用されることが多いです。そのため、量子コンピュータが普及する前に耐量子暗号技術への移行を進め、長期的に安全な情報通信環境を維持することが重要です。

データの保護とインフラの信頼性

量子コンピュータが普及すれば、金融取引、政府機関の機密情報、個人データなどが攻撃対象になります。量子コンピュータに対する対策を講じておくことで、これらの重要なデータを守り、インフラ全体の信頼性と安全性を確保できます。これにより、社会全体のセキュリティが保たれます。

量子コンピュータ時代のサイバーセキュリティ

量子コンピューターの進化は、従来のコンピュータでは解決が難しい問題を飛躍的に高速で計算できる可能性を秘めており、様々な分野での活用が期待されています。一方で、サイバーセキュリティ上の大きなリスクをもたらします。量子コンピュータ対策には多くの時間とコストを要するため、できるだけ早く計画を立て、取り組むべき課題です。
当社は、耐量子暗号技術に関する研究を進め、お客様の安全・安心なソリューションの提供を図っていきます。